時は遡り2017年8月

夏休みに入り時間を持て余していた僕はバイトを探していた。

翌月にリゾートバイトを控えていたため、レギュラーワークに就くことは考えておらず、「単発バイト」を調べていた。

 

現在関東圏に住んでいる僕は、「単発バイト」の多さに驚きを隠せない。

というのも僕の住んでいたところは田舎だったからだ。

準田舎という表現がしっくりくるだろう。

電車は1時間に1本、遊びに出掛ければ、十中八九同級生に出くわすような小さな町。

イオンが1か所、映画館をテナントに持つ百貨店が1か所。

学生時代遊ぶと言ったらそこくらいしかなかった。

そんな小さな町だったので、「単発バイト」の募集をしている会社はほとんどなく、僕は車で2時間程度の大きな町で単発バイトを探していた。

すると、【深夜倉庫整理】時給1000円!!という驚愕の文字が目に入った。

驚愕?そう、驚愕である。

僕の地元では、時給が1000円を超えるバイトなど早々見つかるものではなかった。

飲食バイトは時給が750円程度から始まり、850円のバイトがあれば高い方、

900円なんて早々見れるものではなかった。

そういった経緯なので、1000円を超えるバイトを見つけることが出来たのはとても貴重だった。

深夜にバイトをするのはつらいが

夏休み中ということもあり時間に余裕があったのでここでバイトをすることにした。

時間は19:00~5:00(休憩1時間)

日の出から日没までが活動時間だった僕にとって

昼夜逆転のバイトは初体験だった。

初めて行く場所で

免許を取ってからあまり車を運転していなかったこと

重度の方向音痴だったことなどの理由により到着時間より1時間は早く着くように家を出た。

 

そうはいったものの、結局Google Mapの情報通り、きっかり1時間前に目的地まで着いてしまった。

倉庫の周りには建物一つなく、あるのは生い茂る林と数えきれないほどのトラックのみ。

バイトまでの時間を持て余している間、色々なことを考えていた。

「夜の工場ってなんか怖いな、治安が悪そう」

「この辺で生き埋めにされても誰にも気づかれなさそう。」

「夜の工場ってなんかえっちだな..かわいい子いたらどうしよう」

何事に対しても、初めてのことだと緊張して感情がよく分からなくなる。

そんなことを考えていたらあっという間に1時間は経ち、出勤の時間になった。

入り口で受付を済ませた後、ロッカーに貴重品をしまい、ヘアネットと手袋を身に着けて工場の中に入っていくと、

臭い...

食品を扱っていて臭いというのは致命的である。

だが、この臭さは単純に僕が嫌いなだけのものだった。

工場独特のにおい、おそらくどの工場もこんな匂いだろう。

小学4年生くらいで工場見学に行って具合が悪くなったのを思い出した。

閉鎖空間でいくつもの大きな機械が大きな音を立てて動き続けている。

工場独特の滑りずらいキュッキュとした床。

光が差し込む所はなく、人工光で一夜を過ごすことになる。

どちらにしろ、外は夜なので太陽の光が差し込むことはないのだけれど。

工場内は人工光のおかげで昼夜が分からなくなる。

活動時間が基本的に昼間の僕にとっては、今活動しているということは実質感覚は昼間ということになる。つまり工場内は昼間。外は夜。

「どっちかの夜は昼間」ということになる。

C'mon baby America~♬

 

仕分け作業は単純なものだった。

レーンから流れてくる箱に、パンを仕分けして入れる。これだけだ。


作業は単純明快だったが、慣れるまでには時間がかかった。

商品を大切に扱わなければいけないけれど、スピード感を出さなければならない。

倉庫仕分けと言うと、個人で成立するものだと思っていたが

自分の作業遅れが他人に迷惑をかけてしまうものだった。

隣で作業していた20代後半くらいの少し髪が後退している男性も、初めての様子だった。僕と同じくらい手際が悪く、僕らのレーンだけ他と比べて明らかにペースが遅かった。

「ピーッ!!ピーッ!!!」

詰まってしまった。僕らが余りに遅すぎたため他のレーンにまで支障が出てしまった。

申し訳ない気持ちでいっぱいになり自分の対応力の無さにうんざりしていた。その時

颯爽とおっさんが表れた。

黒縁の眼鏡に整えられた髭、ヘアネットから少しはみ出た茶髪は彼のおっちょこちょいさを漂わせていた。小柄で可愛らしい、そんな印象のおっさんだった。

が、彼の雰囲気は僕の思ったそれとは明らかに違かった。

こちらを鋭い眼光で睨み、「ちょっと変わって」と一言。

言葉遣いだけで、見当違いな人物像を描いていることに気づかされた。

彼は、仕分けの玄人だった。

溜まりに溜まったパンたちを瞬く間に箱に仕分けしていく、動きは作業的なものからはかけ離れていた。

リズムに乗っているといっても過言ではなかったその姿はまるで独学でストリートダンスを学んでいるアメリカの若者の様だった。

心なしか、微かに彼の口角が上がっているようにも見えた。

彼のスピード感に圧倒されていた僕は無意識のうちにこんな言葉を発していた

「あの...もっとスピードを出すにはどうしたらいいんですか?」

厳しい表情から一転、彼は嬉しそうにコツをもったいぶらずに教えてくれた。

仕事人のONとOFFを身に染みて感じた瞬間でもあった。

彼との対面はわずか5分にも満たなかったが、その後の僕のモチベーションは8時間高まったままだった。

去っていく彼の背中はあの偉大な大海賊白ひげの背中よりも大きく見えた。

コツを教えてもらった僕は、見る見るうちにスピード感を身に着け、隣のハゲおっさんにコツを教えられるくらいには成長した。

そんなこんなで楽しくなってきたころに、休憩が入った。

休憩中、寝るかどうか悩んだ。

時刻は深夜1時を過ぎていた。

今寝てもまともな睡眠はとれないだろうとは思った。

そもそも、眠気も全く襲ってこなかったので寝るのは辞めた。

休憩室で携帯をいじっていると誰かから話しかけられた。

「何飲む?」

まさか地元から車で2時間の単発バイト先に知り合いが??

普通に考えれば、地元に単発がないならここに来るしかないか。

妙に腑に落ちてしまった僕は、やむなく目線を"彼"に向けた。

"彼"だった。


"彼",そう、あの"彼"である。白ひげの背中よりも大きな背中で僕に仕事の流儀-プロフェッショナル-を見せてくれた彼。

僕「あ、さっきの...!! いや、大丈夫ですよ!」

彼「いいから、もらっとけ、何飲む?」

僕「うーん...じゃあえーっと、これおねがいします!」

僕はコーヒーに生クリームをぶっかけても飲めない質なので、かっこつけずに三ツ矢サイダーを頂いた。

彼はイメージ通りブラックコーヒーを手に取っていた。

僕「あの...さっきはありがとうございました!!」

彼「あんなこと聞いてくる子あんまりいないからさ、ちょっと嬉しくなったよ」

僕「え、そうなんですか?」

そういうと、彼は缶を開けて一口目を飲み始めた。

彼「ここに来るバイトの子ってとりあえず時間が過ぎればいいって人が多くて

俺がたまにああやってヘルプに入ったりするんだ。その間もボーっとしてる子が多くてさ」

彼「だから、君みたいにコツを聞いてくる子がいるとついつい嬉しくて話し過ぎるっていうか..」

僕自身、褒められた気がして嬉しくなり一気に心がオープンになった。

お互いの事から始まり、家族についてや僕の進路の相談にものってもらった。

まさか出会って間もない茶髪のちっちゃいおっさんにこんなに自分の話をすることになるとは思わなかった。

「おっと...そろそろもどらないと」

もうそんな時間がたっていたのか。時計は1時30分を指していた。

彼の休憩時間が終わったようだ。

彼はそう言うと、ヘアネットと手袋を持ち作業場に戻っていった。

会話が盛り上がっていただけに、名残惜しそうな表情をしていた。

 

2時になり、僕も持ち場に戻った。

作業に慣れてきたこともあり、レーンを詰まらせることは無くなった。

だが、それは同時に彼と会うチャンスもなくなったということだった。

わざと詰まらせて彼に来てもらおうかな。

中学生が好きな先生に問題が分からないふりをして話をしに行く手法と同じである。

流石にこんなことはしなかったが、休憩を最後に彼と会うことはなった。

帰り際、ロッカーで着替えていると隣で作業していたハゲおっさんが話しかけた来た。

ハゲ「ねぇ、今回の単発バイト初めて?」

僕「そうですね、お兄さんもですか?」

ハゲ「そうだよ~、僕パンが好きなんだよね!」

僕「そうなんですか~いいっすね!」

ハゲ「実は、パン屋経営してたこともあって...でも」

僕「でも?」

ハゲ「つぶれっちゃったんだよね...」

僕「あらら」

家の近くにイオンモールができて、お客さんが持っていかれてしまったそうだ。

わずか数ヶ月で潰れたとのこと。

まさにワンパン。

 

 


 

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